今だからこそ児童書を読んで欲しいという話
「あるところに」から始まり「めでたしめでたし」でハッピーエンド。
それが児童書。
いいえいいえ、もっともっと残酷なお話だってあるんですよ。
例えばアンデルセングリム童話なんて手酷い仕打ちのオンパレード。
「ヘンゼルとグレーテル」の子捨て
「シンデレラ」の連れ子いじめ
「ラプンツェル」の軟禁
「赤ずきん」の人喰い狼
こんなの子供に読ませられない!なんて思いますよね。
キラキラした可愛らしい世界観で描かれる児童書もありますが、長編物や高学年向けからは主人公や登場人物が悲しい目に遭う展開が多いのです。
悲しいお話なんて・・・いえいえ、だからこそお子さんにも大人になる前に読んで欲しい。
子供向け?いえいえ、今現在大人真っ只中のみなさんにもぜひ読んで欲しいんです!
児童書と小説の違い
世の中に小説はたくさんあります。けれどその中でもなぜ、児童書をおすすめするのか。
一般的な小説の主人公は大抵が青年期〜の大人が主人公のものが多いです。
比べて児童書ではどんな展開であれほぼ95%くらいの確率で子供が主人公なのです。
主人公の環境、年齢などが近ければ近いほど感情移入ができるので、ターゲット層としては当然ですね。
また、過激描写などの有無も相違点です。
児童書には悲しい目に遭おうが、過激に詳細が描写されることはまずありません。
なぜ児童書なのか
社会に出て世間を知り、常識に囚われ自分というものが薄れてしまう。
誰しもそんな風に思ったことが多少はあるのではないでしょうか。
私自身、社会に出て常識という洗礼を受け日々の流れに忙殺されて何がしたいのか、何が好きだったのかわからなくなったことがありました。
そんな時出会ったのが『妖怪アパートの幽雅な日常」『ダレンシャン』でした。
どちらも図書館のキッズコーナーに置かれていたもので、ふと表紙が視界に入り手に取りました。
帰宅して読みはじめ一気に世界が変わりました。
『妖怪アパート』の主人公である夕士は子供時代に両親を亡くし、周りにも疎まれる環境でこんなにも笑っている。
『ダレンシャン』の主人公ダレンは窮地に陥りながらも自らの意思で生きる道を切り開いている。
なんて強いんだろう、それに比べて私はなんてつまらなく弱いんだろう。
と今までの自分を振り返りました。
児童書は単純に言うと、恵まれない・弱虫だった主人公が頼もしい仲間を見方につけながらパワーアップして過去、課題を克服していく物語です。
子供たちがこんなに頑張っている。勇気をもらえると思いませんか?
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まとめ
こんな時代、こんな世の中だからこそ、ただただひたむきに全力で生きる彼等主人公のようにありたいと希望を貰える、それが小さな子から大人まで、全年齢愛される児童書です。
子供向けだと侮ってはいけません。
前述したように残酷な仕打ち、境遇におかれてしまう物語だってあるのですから。
しかしどの主人公もきっと、絶対に逃げ出したりはしないでしょう。
問題に立ち向かい、行動するものだけが希望を見出せるのです、いつの世も。
飯テロ小説、『妖怪アパートの幽雅な日常』を読んだ話
本日、紹介する本は
『妖怪アパートの幽雅な日常』 香月日輪作
児童書の中では結構有名な作品なので知っている方も多いと思います。
この作品・・・できることなら全てのご飯を愛する方に読んで欲しい!!!!!!
もうグルメ小説なの?ってくらい美味しそうな料理描写が次から次へと・・・。
あらすじ
高校入学と同時に洋館風の古いアパートで下宿生活を始めた稲葉夕士。
3食付きで格安、入居を決めたが実はこのアパート、地下に温泉が湧き妖怪たちが賑やかに暮らす”ことぶき荘”ならぬ”妖怪アパート”だった。
魅力的な登場人物
この物語ではどこを読んでも濃い、非常に濃いキャラクターばかりです。
そういった要素が”妖アパ”をさらに盛り上げています。
稲葉夕士(いなばゆうし)
この物語の主人公。中学時代に両親を交通事故でなくし伯父の家に引き取られるが、伯父一家とは折り合いがよくなく高校進学を機にひとり暮らしを決める。
縁の巡り合わせにより物語後半で「プチヒエロゾイコン」という魔導書のマスターになる。
一色黎明(いっしきれいめい)
一部に偏狂的なファンを持つ有名な詩人、童話作家。
男性であるが一人称は「アタシ」。
昔、熱狂的なファンに刺されそうになったことがある。
深瀬明(ふかせあきら)
暴走族風な外見とは裏腹に海外で人気の画家。
愛犬シガーとはよき相棒。みんなのアニキ。
久我秋音(くがあきね)
昼は普通の女子高生、夜は妖怪診療も行う「月野木病院」で修行も兼ねて働いている。
見習い除霊師。プチヒエロゾイコンのマスターとなった夕士の霊力トレーニングをつけてくれるなど、面倒見の良い子。ちょっと(かなり)大食い。
龍(りゅう)
長身長髪黒ずくめの謎多きイケメン。強大な力を持った霊能力者で、秋音の憧れの人。
ふらっとどこかへ行っては忘れた頃にふらっと帰ってくる。
古本屋(ふるほんや)
丸メガネに長髪の青年。
妖怪アパートのご飯が大好き。怪しいものや希少本を収集しており、自身も「七賢人の書」という魔導書のマスター。夕士の師匠。
骨董屋(こっとうや)
オールバックに口髭、黒いコートに眼帯という中二病を拗らせてしまったかのような癖の強い外見。
次元を超えて怪しい品物の売買をしている。
るり子さん
生前はホステスをしており、小料理屋を開くのが夢だったがつきまとう客にバラバラにされてしまったため、現在は手首から上だけの姿。
彼女の作る料理は絶品で季節ごとに食材を使い和洋中様々な料理に腕をふるう。
るり子さんの飯テロ料理
妖アパは物語の面白さもさることながら、料理描写が細かくてお腹が空いてきてしまいます。
夜中に読んではいけませんね、これは。完全な飯テロです。
最終巻に登場するだけでも
などなど1冊にこれだけの飯テロ爆弾が仕掛けられております。
るり子さんの手料理はあまりにも評判につき、本編とは別にお料理本が出版されています。
気になる方はぜひご一読ください。太ります。
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まとめ
妖怪アパートの幽雅な日常、少しでも感じていただけましたか?
終始ご飯のことばかりだった気がしますが、それ以上にストーリーも波乱万丈に満ちていて、次はどうなる?次は??と、ページを繰る手が止まらなくなります。
物語のテンポもよく、話し言葉で読みやすいので小学校中学年〜におすすめです。
もちろん大人が読んでもどハマりします。
主人公が周りの大人たちに良い意味で影響を受けながら成長していく姿に、全巻読み終わる頃には嬉しさと共に、手を離れていってしまうような寂しさも感じます。
外伝なども出版されていますので妖アパの住人になりたい方、美味しいご飯の空想に励みたい方、ぜひおすすめいたします!
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『湊町の寅吉』を読んで、商売のあり方、新潟の風俗史を改めて知った話
本日ご紹介する本は
『湊町の寅吉』 藤村沙希作
結論から言うと、この作中の一節で客商売の根本を感じました。
「商は笑なり」
売る側も売れて嬉しい、買う側も欲しいものを得られるので嬉しい、と言うことです。
あらすじ
主人公の寅吉は8歳でありながら、大きな廻船問屋の長男として日々の礼儀作法を厳しく教えられていました。
この説明だけなら、さぞ優秀で勤勉な子なんだろうと思いますよね。
いえいえ、寅吉、彼は大変ないたずらっ子です。
けちんぼ爺さんで有名でもあり、町の大きな質屋の主人に目を付けられてしまうほどに。
ある日、寅吉の家の船が座礁してしまい、父の切り盛りする廻船問屋の商いに陰りが生じてしまいます。
同じくして伏せっていた寅吉の母の容態も悪化し、高価な薬が必要に。
しかし、家の商いは不振に陥りかけ高価な薬など手が届きません。
寅吉の父は意を決して、町の質屋である金兵衛のもとにお金を借してもらえるよう頼みに行きます。
そう、寅吉がいたずらを仕掛け、激怒させてしまった金兵衛のもとに・・・。
案の定金兵衛はねちっこく快諾せず、そこまで言うならとばかりにある条件を出してきました。
『大人の手を借りず、寅吉や子供のみで近く行われる「湊祭り」の舞台で人を笑わせろ』
この本の魅力
前項で要約したあらすじを記述しましたが、本編では湊町特有の活気、江戸時代の町並みなどがとても良く年少の子にも伝わりやすいよう描かれています。
また、私自身が1番に惹かれた理由でもあるのですが、表紙の絵、装丁などがとても可愛らしいのです。
花布やスピンまで表紙の色合わせとよく考えられているようで、本棚の一角に置いておきたい本だと思いました。
後書きの終わりには新潟出身の文豪でもある小川未明について、史跡や要点が写真付きでまとめられています。(作者様である藤村さんも新潟出身であり、本作で小川未明文学大賞を受賞されている関係だと思います)
まとめ
特に印象的だった節は
「商は笑なり」という商売人全ての方に知っていただきたい言葉です。
私自身、接客などの経験もあり、考えさせられるところがありました。
また善行や努力などは誰にも気付かれずとも、必ず自身の生き方に現れるのだということ。
各登場人物、藤村先生が伝えたかったのはそういったことだったのかと読了後感じました。
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本日より、はじめまして。
近頃ずいぶんと冷え込んできましたね。
半袖を着ていたことがつい数週間前だなんて思えないくらいに。
個人的には秋冬は大好きです。
だんだんと涼しくなり、ふと外出している時に金木犀の香りが漂ってくると、
「あぁ、今年ももうすぐ終わってしまうなぁ・・・」
と寂しくなると共に、なぜかやる気スイッチが入ります。
今年のだらけきった汚点をあと数ヶ月で払拭しようとしているのでしょうか・・・。
冬生まれということもあるのでしょう。
プレゼントにはよく本をねだるくらい、昔から本が大好きでした。
中でも絵本、児童書は特別です。
大人になった今でも考えさせられることもあり、癒されることもあり。
大人になった今だからこそ、また絵本などを手にとってみませんか?
きっと思っているよりも人生はシンプルなのです。
忙しい日常で忘れてしまっていた懐かしい気持ちを想い出せる、素敵なツール。
児童書好きの書評ブログはこちらです。
あたたかいコーヒー、紅茶とお気に入りの本を傍らに、しばしお付き合いいただけますと幸いです。
『うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと』 江戸川乱歩